【開催報告】第1回勉強会

日 時 2016年6月13日(月) 18-19時
スピーカー 宇高寛子さん(京都大学大学院理学研究科)
場 所 京都大学吉田泉殿

研究の背景

宇高さんが現在進められている「ナメクジ捜査網」について、その活動に至るまでの経緯を研究背景とともに説明された。現在最も数が多いのが外来種であるチャコウラナメクジ(体長3cm-5cm)で、ほぼ日本全国にいる。宇高さんによると、日本のナメクジは下記のような流れで入れ替わっている。

  • 元々日本にはナメクジ(種名)がいたが、今は減っている。
  • キイロナメクジが江戸末期に移入したが、今は全くいない。
  • チャコウラナメクジが戦後移入し、現在最も分布を広げている。
    (キイロナメクジもチャコウラナメクジもヨーロッパ原産)
  • さらに2000年以降、マダラコウラナメクジ(体長20cm程)が茨城県に移入した。

先行研究において、マダラコウラナメクジの分布は北海道、福島、茨城、長野と記載されているが、宇高さんは北海道と福島など地理的に離れている地域で広がっていることに疑問を持ち、分布調査を思い立った。

ナメクジ捜査網構築までの経緯

研究の大目的としては、どうやって生物は新しい環境に適応するのか、移入種の生態系への影響を調べることにある。分布調査を思い立ったものの、ナメクジは普段人の目につかない場所に生息しているうえ、鳴かないため、ひとりで全国的な調査をするのは難しい。
どうやって調査を行うか検討していたころ、2015年8月に「萌える生物学」シンポジウム@大阪大学で、ポスター発表をし、その内容について「これってオープンサイエンスだよ」と言われたのがきっかけになった。
その後、研究をオープンにしようと思い、2015年11月頃、自身のウェブページでナメクジ捜査網のページを作った。2016年1月にTwitterアカウント@Lmaximus7 を作成。

ナメクジ捜査網の成果

2015/9/1-2016/6/13の間に、ナメクジを見つけたという市民からの報告が161件(31/47都道府県)あった。報告はサイトをつくった最初に少しあったが、2016年2月に急増。京都新聞夕刊にナメクジ捜査網に関する記事が掲載され、さらにYahooニュースに掲載されたことによって、一日80件の報告が来た。その後、ラジオや雑誌等の取材を受けた。冬にはあまりナメクジはいないために報告は減っていたが、春以降また増えてきている。

報告の概要

マダラコウラナメクジ:約20件
ヤマナメクジ:約80件
その他、不明合わせて:約60件
報道の内容によって「大きいナメクジ=マダラコウラナメクジ」のイメージが先行したため、体長の大きいヤマナメクジの報告が多くなった。また、ヤマナメクジも人によっては「(マダラコウラナメクジのような)ヒョウ柄」に見える。コウラナメクジ科の「甲羅」を見分ける資料を返信しているが、携帯メールの場合は届かないこともあった。ただし、ヤマナメクジの分布調査にもなっていると考えることはできる。

報告の手段

市民からの報告の8割強はメールできた。Twitterは次点。
インターネットに親しみのない高齢者から電話や手紙による報告が寄せられたが、写真がないため判断できないことがあった。興味を持ってくれた市民にどう対応していくかが課題のひとつ。

会場からの質問:どういう人が報告してくれるのか?
回答: 普通の人。大きなナメクジの写真を撮って保存していた人。
Twitterは生物好きの人たち。年齢は分からないが30, 40代と60代以上が
多いのでは。

現時点での結果

すべての報告の分布を見ると、都道府県別では、京都が一番多い。京都新聞に掲載されたことと「京都大学の研究者」ということが影響しているだろう。人口の多い東京からの報告がゼロだったことは意外。

会場からの質問:地理情報はどこまで細かくとるのか?
川の流域に沿って分布が広がっているなど考えられるのでは?
回答: 都道府県、市町村まで。今のところ詳細な住所は不要。
詳細な住所などの個人情報を保持したくないということもある。

茨城、福島、北海道でマダラコウラナメクジを確認。先行研究で報告されていた長野では、現在のところ報告なし。埼玉で新しい報告として1件あった。継続して分布の報告を待つ。今回の調査で従来の報告とは別の地域で発見されたことは意義があった。まだ情報は少ないが、おおむね活動は良好といえる。

今後の課題

  • もっと裾野を広げたい。
  • 手段と目的のミスマッチがあり、Twitterは若年層が使うが、彼/彼女らの住環境には庭がない。
  • 情報の扱い方(発見したという権利をどこまで記載するか)
  • 持続可能性

長期課題

飽きられない、忘れられないためにどうすれば良いのか?

  • 継続した情報発信が必要
    • 研究成果の発表(論文・本)など
    • Twitter
  • ナメクジに興味を持つ人を増やす
    • 自動でナメクジの種名が検索できるサイトを作成すれば、継続的に投稿してくれるのでは。
    • 専門書でない本(従来のイメージを変えるための「かわいいナメクジ」写真集)
    • ぬいぐるみはあり得る選択肢だが、先行投資が大きい。

研究の先に目指す世界としては、ナメクジをつかまえた子どもに色々な知識を教える親をイメージしている。

おまけ

日本では存在が確認されていなかったバナナナメクジ Ariolimax californica が報告された。
報告してくれた人の支障になる可能性があるため、どこで見つかったかは明らかにできないが、国内から来たと考えられる。その地域でバナナナメクジが広がっている可能性がある。

質疑応答

  •  誰でも投稿できるサイトをつくったら良いのでは
    • あり得る方法だが、今度は投稿サイトを宣伝する必要がある
  • ゲーミフィケーションを取り入れるのはどうか
    • これもあり得るが、ゲームとして点数を稼ぐためだけに虚偽の報告が出る可能性が高くなるのでは
    • 電話で報告をもらった際に「報酬があるのか?」と聞かれたことがある。
    • ナメクジ捜査網の場合、情報提供の対価・見返りを期待して報告してもらう、という形は不向きではないかと考えている。
  • 他のマニアックな生物種の分布調査をしたい研究者と協働して、「レア動物分布調査サイト」のようなものを作ってはどうか
    • それは良いかもしれない。
    • (会場から)蝶で画像自動検索をするサイト(いきモニ)がある。
  • 研究の全体像のなかでオープンサイエンスによる研究はどのような位置を占めているのか
    • まだプロジェクトが成熟していないので純粋サイエンスとまでは行っていないが、10年程度続けば大事なデータになる。
  • どのくらいの労力であれば継続できるか
    • 1日、2, 3件なら研究者ひとりでさばけるが、10年続けるとなるとずっとひとりで継続することは考えにくい。
    • 自動的に情報が集まり、労力少なく継続できる形は考えたい。
    • 市民への対応を速くするためにも、自動返信できるようなシステムになるといいが、一方で研究者が個別に対応したいときもあるため、すべてをシステマティックにすることは検討を要する。

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