2021年6月15日にジャパン・オープンサイエンス・サミット2021( Japan Open Science Summit
2021、JOSS2021 )にてセッションを開催しました。
セッションタイトル
オープンサイエンスパラダイムは科学の民主化を推し進めるか
概要
オープンサイエンスパラダイムによって学術情報のアクセスにかかる物理的・金銭的障壁が低減している。そしてオンラインで行われる市民参加型研究や、「野生の研究者」や「独立系研究者」と呼ばれる大学等組織に属さずに研究を行う人達など、既存の科学の枠組みを捉え直す動きに注目が集まっている。オープンサイエンスが知的生産活動の構造を変え科学の民主化を促進して「市民研究者」と呼ぶべき層を生み出し得るのであれば、そこで問題になるのは次の点である。(1)市民研究者の成立条件とは何か、(2)資金面の民主化は可能か、(3)市民研究者を科学技術政策からどのように位置付けるか、である。そこで本セッションでは、この3点についてそれぞれ有識者が講演し、その後に参加者も交えて市民研究者の可能性についてディスカッションを行う。
登壇者
片野 晃輔(野生の研究者)
柴藤 亮介(アカデミスト株式会社 代表者)
標葉 隆馬(大阪大学社会技術共創研究センター 准教授)
スライド
片野さん:スライドなし
柴藤さん
https://docs.google.com/presentation/d/1HH9RNldm1PDVjdIBBZ2O4bjPSn_n-nGFs6T7sfsHa5c/edit?usp=sharing
標葉さん
メモ
片野晃輔さん
- 自己紹介
- 野生の研究者
- 現在、フリーランスの研究者としても活動
- 分子生物学のバックグラウンドを持つ
- サイエンスの面白さを伝えたいと思い、市民科学を始める
- 科学自体が不定性を含む
- 答えが出ないことを大事にしたい
- ネガティブ・ケイパビリティ(Negative capability)
- 市民科学とは何か/市民とは誰か
- 参考:市民科学とは何か/市民とは誰か|KosukeKatano|note
- 記述することの重要性
- 「市民」とは?
- 非専門家であり、Task solverであり、研究を職業としない人として語られることが多かった
- なぜ「市民」と呼ぶのか?どのような人に参加してもらいたいのか?理想像は?
- 記録と伝達により知識が体系化される
- プロ研究者は記録と伝達を重視してきた
- 一方で、記録と伝達に関わるプロ研究者以外の人が数多く存在する
- 知識の体系化に対する市民の貢献の度合いはどの程度か?
- 「市民研究者」というものを定義したくない
- DIYからDIWO (do it with others)への動き
柴藤亮介さん
- 学術業界の現状
- 大学・研究機関の研究リソースの削減、閉鎖的な学術業界
- 研究費
- 研究環境(人材・情報)
- 大学・研究機関の研究リソースの削減、閉鎖的な学術業界
- クラウドファンディング
- CF4分類のうち、学術系では寄付型CFと購入型CFがメイン
- 2021年以降の株式型CFの発展に期待
- 学術系特化型CFサイトは世界的にも少なく、サービスの継続性が課題
- academist (アカデミスト) (academist-cf.com)
- CFの種類
- 寄付型:税制優遇あり
- 例)顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの治療法を開発する!
- 購入型:物品よりも研究報告レポート、参加券、名前掲載など
- 例)タイの希少言語「ムラブリ語」の謎を解き明かしたい
- 月額支援型
- 例)単一分子を追える装置で化学反応のメカニズム解明に挑む!
- 寄付型:税制優遇あり
- 支援動機(アンケート結果より)
- リターン目的でのCF参加は少ない
- CFの種類
- 論点
- 研究費配分方法のアップデート
- ポートフォーリオの多様化で「自活」の流れをつくる
標葉隆馬さん
- 市民科学の議論
- 若手アカデミーによる提案
- 広報、研究倫理、基盤整備、研究資金制度など制度的な議論中心
- 「生物・医学研究における国内外の市民科学事例に関する文献調査」(ELSI NOTE vol.5 https://elsi.osaka-u.ac.jp/research/769)
- 伝統的な調査機関の外部に位置する
- 様々なパターンの存在
- 活動のしやすさのためにはインフラ整備が重要
- 若手アカデミーによる提案
- Horizon Europeと科学技術・イノベーション基本計画
- エコシステム形成
- 科学に関わる人々の裾野の広さをどこまで考えるか?参加者のグラデーションをどう考えるか?
- 例)野鳥の会やレジデント型研究者(体験の重要性)
- 政策的にどれくらい支援できてきたのか?
- 幅広い研究計画
- 東日本大震災の事例
- 現地の協力者たちの存在(文化財担当者、語り部など)
- インパクト評価のあり方への示唆
- 社会とのつながりの中で重要な学術的活動だが、論文などの評価スキームでは評価されにくい
- アカデミアの中ですら、幅広い活動が適切に評価できていない状況
- 東日本大震災の事例
- 生産的相互作用(SIAMPI)
- ネットワーキングを評価する
- 論点
- CSの中間的活動を評価する仕掛け
- プレーヤーの見える化
- アカデミアの中での多様な活動の評価
パネル・ディスカッション
- シチズンサイエンスの裾野をどう評価するか
- 知識を残していくことは研究活動にとって重要
- 知的生産のエコシステムのデザイン
- アクターの多様性、活動の多様性を評価することが重要
- 本来、職能、活動そのものなど、様々な次元で評価ができるはず
- 現状、評価の対象に入っていない
- ただの搾取にならないような構造が必要
- 政策を作る側だけで作れるわけでもない
- 可視化することが必要になる
- 知的生産活動を支える人の評価をどう考えるか?
- 趣味で行っている人もいる
- 資金源が公的・私的なものもある
- プロセスが重要であり、その記録を残していく事が重要
- プロジェクトがどのようなインパクトを与えたか
- 評価系自体の開発が求められている
- 全体として見て面白いと思えるか
- クラウドファンディング
- 最近は、お金が欲しい人よりも、自分が想定しないものを得たいという人が増えてきている
- クラウドファンディングもシチズンサイエンスも仲間集めという側面がある
- 現行の研究評価で取りこぼされている
- 場づくり、きっかけづくりに貢献
- データベースの整備が必要
- 研究が許されない状況ってどういうこと?
- 本来、研究は誰にでも開かれているもの
- 研究の説明責任
- academistの枠組みは基礎研究でも応用研究でも使える
- 基礎研究でも応用研究でも、面白がって挑戦できるかが大事
- 支援者の顔が見えるクラウドファンディングでは緊張関係が築かれる
- 科学技術発展のプロセスにどう巻き込むか?
- 参加型リサーチデザイン(participatory research design)
- 例)バルセロナなどの都市開発の例
- user(=使う側)で座組を作ると、creatorが含まれなくなってしまう
- 企業ベースで実施している事例が多い
- 間主観的なデザイン
- 参加型リサーチデザイン(participatory research design)
- プレーヤーが増えれば増えるほど展開が広がる
- GitHub、DOIなど、引用しやすいアーカイブの存在は偉大
- オープンサイエンスの基盤を支える多くの人たちのキャリアパス
- ネットワークの中間的な役割の人の社会的地位について
- 企業側からの潜在的なニーズはある
- 現状、シンクタンクがサーベイ案件を担うことが多く、サイエンスコミュニケーター的な人がその仕事を任される機会が少ない
- サイエンスコミュニケーターの活躍の機会では?
- 新しいキャリアパスの講義
- 就職後に部活動的にやっている活動を知る講義はないかも…
- 余暇につながる場をつくることが大事
アフタートーク
- ネットワークを担う中間層(コントリビューター)の活動について
- 活動や行為にIDをつけることは、ある種、監視社会や過度な評価社会につながるのでは?
- IDをつけるときに、細かい単位にしすぎないことが大事
- コントリビューターが活動や行為の公開・非公開を自己申告できるとよい
- 活動や行為にIDをつけることは、ある種、監視社会や過度な評価社会につながるのでは?
- 情報が伝わるには時間がかかる
- 行為に対して識別子をつけるかどうか
- リアルタイムで評価されない、評価は本人になかなか還元されない
- 長い道のり…
- academist
- 支援者は研究領域に関心が高い人が多い
- 研究者の人となりを知りたいという声は増えてきている実感がある
- 地域の自然保護活動について
- 参加者(非研究者)の名前が表に出ることに抵抗感がある人もいる
- iNaturalistやBiomeなどのアプリでは匿名化して参加できる
- 絶滅危惧種の情報を守りたいという意識がある
- 参加のガイドラインを作るまでは至っていないが、、、
- データを活用したい、共有したいという思いをもつ参加者も多いが、ドキュメンテーションの壁がある
- ドキュメンテーションスキルの壁(=いきなり論文化はできない!という意識)
- 学校の先生やアマチュア研究者、学芸員などが間に入ることでドキュメンテーションが実現できる
- ドキュメンテーションの方法
- MITメディアラボのFablabによる、実験の記録方法をある程度フォーマット化したウェブサイト
- サイエンスのHow toをまとめたサイト https://gogo.wildmind.jp/feed
- 語り部の語りの蓄積
- 仙台メディアテークの取り組み「3がつ11にちをわすれないためにセンター – 東日本大震災のアーカイブ (smt.jp)」
- ビデオを貸出して、記録をとってもらう
- 無形なアウトプットもある
- 山口情報芸術センター[YCAM]の取り組み
- アーティストが活動する際の第三者による映像アーカイブ
- 仙台メディアテークの取り組み「3がつ11にちをわすれないためにセンター – 東日本大震災のアーカイブ (smt.jp)」
- 有形なアウトプットと無形なアウトプットの両方が必要
- 可視化しにくい「職人」ワザ
- 何を見ているのか分からない
- ライフスタイルを追う文化人類学
- 主観的な指標は分かりにくい
- 専門家にゲームをプレイさせるYoutube動画「ゲーム散歩」
- 人の視点をアーカイブする
- 情報のキュレーションの重要性
- WWFの取り組み
- デザイナーなども間に入って情報を伝える
- IPCCの取り組み
- フルペーパーやその概要版など情報が段階的に整理され提供
- WWFの取り組み
- サイエンスショップ
- 研究分析を大学に委託する
- 日本ではあまりうまくいかなかった
- 研究者はいわば情報のキュレーション役でもある
- 知識産業を研究者に外部委託することは可能か
- マネタイズの問題
- ミュージアムや学芸員、ライブラリアンの方の役割
- インフラの地域差
- ICT、ネットワーク
- 博物館について
- 博物館における外来種の生態系展示
- リカレント教育の重要性
- 例えば、非専門家が二次資料を読んで生態保全をしようとすると、その知識が古い場合がある。最近の知見が入っていないことがある。
- 中長期の活動の前提として、価値観が変わっていく可能性がある
- シチズンサイエンスにおいて、知識体系が常に暫定的であるということを認識する必要がある
- 生物系や物理・天文系シチズンサイエンスの違いは?
- 生物は複雑開放系、物理は閉鎖系
- 生物では書き換えが日常茶飯事
- 知識のアップデートに関する認識